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ある研究者の嘆き

もう何年も前だけど※1、イギリスの有名な研究者が来日講演を行ったんだ。

そのときね、医療経済学者も講師の一人としてあれこれ話をしていたんだよ。これから学問をやろうっていうのに、なんで経済学なんだってね、そう思ったんだよ。
 
でもね、その後ね、僕は思い知ったんだ。いやあ、本当はみんな気付いてたし、知ってたんだけどね。日本には医療経済の本当の専門家がいないの。いるのかもしれないけど、現状じゃあ、いないのと同じなんだよね。それがまずかった。
専門家がいないからね、製薬会社も、役人も、大学も、どこもかしこもおかしなことになっているんだ。おかしいんだよね、この国は。僕も色々関わってきたからね、分かっているんだ。
 
だから後悔しているんだ。若い時に持っていた情熱はね、今とは違うものだったんだよ。
今持っている、難病の患者を治したいっていう情熱をね、若い頃に持っていればね、駄目だったかもしれないけど、少しは良くなったかもしれない。そう思うと悔しいんだ。
だから僕はね、今も情熱的に研究しているんだ。
 
でもね、時間が足りないんだ。
 
 
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※1 おそらく、何年どころではなく、もっと昔の話だと思う。
※2 研究者は僕の脳内友人ではなく昨日の話し。「今日の僕の酷い有り様がどう写ったか知りたいから書け」と言われて書いた。
 
 
月に数度、互いにお気に入りの茶房でダラダラする医師で研究者の友人・・・といっても、彼は僕の父よりも年上だ。
「君の声質で”先生”と呼ばれると疲れるから、話し仲間として名前で呼んでよ」そんなよく解らない理由で、名字にさん付けで呼ぶ事を強要されて早8年。
 
話す内容はそれこそ下品なものから、専門的過ぎて何言ってんだかサッパリわからんものまで多岐に渡る。前回は酢味噌と戦後モダニズムが、今回は専門的過ぎる薬の開発や研究が話題になった。
 
僕は完全に門外漢なので、aβをどうだとか、何だかの細胞をくっ付けて2核細胞にするとああだとか実験や化学式の話しは何一つ理解できなかった。
 
でも、冒頭に記した彼の独白は、彼が初めて見せた怒りに満ちた目元も合間って鮮明におぼえている。
 
そう、彼は後悔なんてしていない。
怒っていたんだ。
 
因みに、この時点で一時間が経過。この後は更に二時間、ああだこうだと続いたが、僕は楽しく、そして嬉しかった。