ホヤを食し、出っ歯を愛でる

僕はホヤが好きだ。

赤茶色の表面に歪な突起、根っこのような足がなんとも可愛らしい。

突起を包丁で落とし、てっぺんから包丁を入れて開くと現われる黒い紐状の臓器。

内側から指を入れ、表皮に沿って押すとテュルンと剥ける橙色の身。

口にしたときの磯の香、一噛み目にジョワァと口腔内に広がる塩からいホヤ汁・・・

ワサビ醤油でも、ポン酢でも、何もつけなくても幸せになれる魔法の脊索動物門 尾索動物亜門 ホヤ綱のホヤよ!あぁ!

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僕は今日、ホヤのさばき方を身に着けた。

もう魚屋でゴロンと転がるホヤを買おうか買うまいか悩む事は無い。

自宅でダラダラしながらホヤを肴に熱燗を飲むという至高の時間。

僕を止める者はどこにもいない。僕は自由だ。自由なはずだ。

でも何故だ?何故僕はホヤの身を普通に切っているんだ?

ここは居酒屋でも寿司屋でもない、僕の家、僕の領域だ。なのに何故、自由なはずなのに店で出されるホヤの様に普通に切っているんだ!これはダメだ、そこに自由は無い。

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自由が無いといえばクランクベイトのデザインだ。

どれだけ胡散臭いキャッチコピーを出しても、オートマチック千鳥アクションやストラクチャーコンタクト時の平打ちアクションを売りにしても、水圧を上手く受け流してブリブリアクションを出そうとすると、その形状はさほど変わらないし、変えようが無い。 

変わり種としてはボディ内部にオイルを注入したクランクベイトや、リップが取り替えられるクランクベイト、プラモデルのような組み立て式のクランクベイトなどもあるが、やっぱり同じ様な形状だ。

 

そんな閉塞感に満ちたクランクベイトデザインにおいて、THタックルのデザイナーはリップ先端に逆三角形の出っ歯を付け、ルアーにデッパーと名付けた。

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リップの▼を削って2m離れて眺めたらたらボーマーやバグリーのクランクと見分けがつかないかもしれない、でもこの出っ歯があるだけでそれとわかるし、出っ歯にまつわる様々な薀蓄やストーリーを作ることもできる。

リップの先に▼が付いているという、ほんの少しの違いだけど、それは大きな個性となり、広告上の大きなアドバンテージになった。狙ったのか、苦し紛れにそうしたのかは不明だけど、このデザイナーが素晴らしい仕事をした事は確かだ。

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このデッパー、釣果がずば抜けているわけでもないし、とりわけスナッグレス性能や感度が高い訳でもない。この出っ歯のおかげでストラクチャーコンタクト時に絶妙な回避だかアクションだかが演出できるとか、ストラクチャーまたはボトムコンタクトの感触が~とか何とか言っている人もいるようだが、都合良く出っ歯のイイ所がストラクチャーに当たる事は稀だ。

 

それでもコイツはいつでも僕のバス用一軍ルアーケースに入っている。

何故か?デザイナーの苦悩と個性が具現化した唯一無二の見事なデザインとネーミング、つまりデッパーというド直球な名前と、その名に違わぬ見事な出っ歯が強烈なアイコンとなって僕の心の変なところに焼き付いてるからだ。

釣は自己満足と自己陶酔の遊びだ、ならばそれだけで十分だろう。これはもう使わない手は無いというわけだ。

 

あと、理由は分からないけどフッコが良く釣れる気がするのは気のせいじゃない。